鍵の掛かった男

久々の有栖川有栖の新作。
作家アリスシリーズ。
というか、最近は、臨床犯罪学者火村英生シリーズ
と言うのかも知れないが、
これは作家アリスシリーズが相応しい。
アリスは、大物作家影浦浪子に依頼され、
自殺とみられる死者の死の経緯を調べ始める。
無論、依頼は臨床犯罪学者火村に対してなのだが、
生憎、入試の時期の為に、准教授である火村は手が離せない。
アリスが調査にあたる。


男は、ホテルのスイートルームの長期滞在者。
身寄りも、友人もない。
金には不自由なく、ボランティア活動に勤しむが、
ことさら他人との関り合いを避けている。
男を知っている誰もが、その人柄を賞美するが、
生立ちも、過去も知らない。
やがて、アリスの調査が進むにしたがって、
ぽつりぽつりと過去が現われて来る。
そして、男の謎が明らかにされ、その死の真相に辿り着く。

五百数ページにわたる探索は、読み応えがあった。
頁が薄いので、本もコンパクトで、持ち易い。
けど、敢えて言うなら。。。


節目にあたる実際の事件が、何となく不自然。
日航機の墜落、神戸の大震災、等。。。
人の半生に当たる期間なので、多岐にわたる所為なのか?
犯人は、当然の帰結のようにも思えるが、
動機がいまいち、理解し難い。
同じく、梨田稔の謎も、
え、そっち?
と思ってしまった。
もっと大掛かりな謎の解明と期待していたので、
肩透かしを喰らった気分。


冒頭で、アリスは家に帰って、PCでメールをチェックしていたのに、
終盤、突如としてスマホが登場する。
調査中、買ったのか?
と突っ込みたくなる。
火村も当然のように、スマホを操作。
だったら、アリスの調査も、もっと捗ったんじゃないと言いたくなるが。。。


このシリーズとのお付き合いも、二十余年。
同世代だった筈の彼らも、遂に子どもの年代となってしまった。。。
(感無量)
当時は、携帯電話も普及していなかった。
PCも同様。
アリスもPCではなく、ワープロを使っていた筈。
今のように、情報は溢れておらず、横文字も氾濫していなかった。