ドリトル先生シリーズ

半世紀程前に、井伏鱒二訳の岩波書店ドリトル先生シリーズを愛読していた。

ヒュー・ロフティングの挿絵が入っている。

全12巻だったはずだが、勿論、全巻買って貰えるような余裕はなく、毎月(或いは2、3カ月ごとに)1巻ずつ購入していた。

と、記憶する。

最初に入手したのは誰かのプレゼントだったか??

何しろ、半世紀も前のことなので、定かではない。

 

このシリーズで印象的だったのは、やはり食べ物のことであった(笑

オランダボウフウ、松露、チシャ、サーディンのサンドイッチ、などなど。

どんなものなのだろう、と、ガブガブ並みにわくわくしていたものだった。

なあんだ、これのことかあ、と思ったもの(チシャ=レタスなど)もある。

当時はお目にかかったことがなくても、後に入手できたものもある。

訳者が意訳したもの(おらんだぼうふう)もあるようだ。

 

何度も読み直したシリーズだったが、さすがにいい歳になり、読み返すこともなくなり、遂に転勤を機に処分してしまった。

その後、差別問題等で一部が削除されたと聞いた。

しまった、早まった、と後悔したが、時すでに遅し。

  

しかし、著作権の消滅?により、新訳が登場した。

Wikipediaによると、2008年以降のことのようだ。

当時は、さすがに児童書を読み直しているような余裕がなかった。

昨年末、KINDLEで、「ドリトル先生アフリカへ行く」河合祥一郎訳のサンプルをダウンロードしてみた。

そうなると、先が読みたくなってしまう。

暫し迷ったが、角川つばさ文庫を購入した。

電子書籍版より、紙の本の方がいい。

 

新訳で、全訳のようなので、カットされた部分はないようだ。

残念なのは、作者自身による挿絵ではなく、pattyの絵になっていること。

子ども向けなので致し方ないだろうし、大人の事情とやらがあるのかも知れないけれど、絵がかわい過ぎる。

ドリトル先生は、もともと丸っこく描かれていたので、あまり違和感がない。

しかし、妹のサラなど、いかにもオールドミス風のぎすぎすした中年?女だったのが、可愛い少女風になっている(笑)

バンポ王子も美少年である(笑)

動物たちも、少々可愛すぎる。

でも、本の上部が、パラパラ漫画になっているのは、とても面白い。

 

それはさておき、読み返して、思ったこと。

今となっても、全く色あせることのないヒューマニズム、というか、動物愛護精神、というのだろうか、に則って書かれていること。

ドリトル先生には、人の間の差別意識も、動物に対する差別意識も、ないのである。

しかし、矛盾はある。

ドリトル先生は、元はお城も建っていた広大な土地に住んでいる。

家は小さいらしいが、かなり裕福で、かなり上位の身分の出身だと推察される。

(イギリスの身分制は全く判らないが)

テールコートとシルクハットを常に着用、皮のブーツを履いて、髭剃りも毎朝欠かさない。

ベーコンやソーセージを食して、お茶(アフタヌーンティー?)も欠かさない。

要は、英国紳士の典型、みたいな生活をしている。

にもかかわらず、身分による偏見は持っていない。

猫肉屋のマシュー・マグとも、靴屋の息子のトミー・スタビンズとも、対等な?友人関係を築いている。

博愛主義的な言動をしているが、犬がネズミを追いかけるのは否定していない。

(ジップはしょっちゅう、ネズミを追いかけている)

キツネがニワトリを襲うのも、生きる為に仕方がないと思っている。(「サーカス」)

肉食獣が狩りをするのは、自然なことなのである。

 

気になる訳が一箇所。

緑のカナリアの床屋さんの場面で。

「将校たちと船員」と訳されていたが、ここは、高級船員と(普通の)乗組員たち、が正しいと思う。

気になる記述も一箇所。

あとがきなのだが、トミーがアフリカ行きで登場したことになっている。

アフリカ行きの作者はトミーなのだろうから、間違っている訳でもないのだろう。

が、実際に登場したのは航海記からである。