2018.09 1泊になってしまった北海道旅行の詳細

9月5日、朝5時に起きて、ニュースを確認する。
台風情報は出ていたが、JRの運行情報はまだ発表されていない。
その後、北海道新幹線は平常通り運行、というのを確認して、7時過ぎに家を出る。


計画していた旅程は以下の通り

9/5 09:36 東京駅発 はやぶさ11号(指定席)
   13:38 新函館北斗駅
   14:11 新函館北斗駅発 スーパー北斗13号(指定席)
   16:51 苫小牧駅
   苫小牧に宿泊
9/6 11:51 苫小牧駅発 スーパー北斗5号(自由席)
   12:08 南千歳駅
   12:26 南千歳駅発 スーパーおおぞら5号(指定席)
   15:56 釧路駅
   釧路で宿泊
9/7 11:24 釧路駅発 スーパーおおぞら6号(自由席)
   15:41 札幌駅着
   16:02 札幌駅発 すずらん8号(自由席)
   16:51 苫小牧駅
   16:55 苫小牧駅前発 道南バス
   17:12 苫小牧フェリーターミナル着
   21:15 苫小牧港出港 シルバープリンセス(B寝台)
9/8 04:45 八戸港
   05:40 八戸港フェリーターミナル発 シルバーフェリーシャトルバス
   06:19 八戸駅前着

6日の午後以降のスケジュールは未定なのだが、7日夜に苫小牧からフェリーに乗船するのは、確定(予約済み)している。

台風21号が去ったので、気楽な気持ちで北海道新幹線に乗っていた。
しかし。
函館北斗駅に辿り着くと、JRは不通になっていた。
(もちろん、車内で放送はあった)

構内放送に従って在来線ホームに移動するが、指定券を取ったスーパー北斗13号は運休が決定している。
乗降客を誘導している駅員さんに尋ねてみる。
札幌にはバスで行けるようだが、苫小牧までは辿り着けるかどうかが判らない。
スーパー北斗の始発駅は函館なので、とりあえず、函館ライナーに乗車することにする。

14時少し前頃に発車した快速函館ライナーは、各駅に停車しながら、函館駅に向かった。
函館駅に到着しても、事態はあまり好転していない。
スーパー北斗は、夕方の2便が運行すると決定しているようだが、それに乗車できる保証がない。

みどりの窓口に行き、長蛇の列の最後尾を見つけて、その後ろに並ぶ。
並んでいる間に、掲示板を見ていると、その日に運行予定の2便は既に指定席もグリーン席も満席になっている。
漸く、自分の順番になったので、運休の指定席をキャンセルし、翌日運行予定の3便目のスーパー北斗の指定席を発券して貰う。
これなら、南千歳駅で、当初の予定通り、スーパーおおぞら5号に乗り換えられる。
これで、函館に宿泊することを余儀なくされてしまった。

15時時少し前、まずは、今夜の宿泊先に電話をして、キャンセルをする。
次は、函館で宿を探さなければならない。
観光案内所には、既に、「本日の函館市内の宿泊は満室」と札が出ている。

仕方がないので、スマホで探してみる。

カプセルホテルでいいや、と思ったのだが、残念ながら、満室。
函館駅から離れた場所で、金に糸目をつけなければ、ホテルや旅館に空室があるようだ。
しかし、駅からは離れたくないし、手持ちの現金は僅かしかない。
比較的駅に近いゲストハウスが空いているのを見つける。
女性専用室、と表示されていたので、Booking.comで予約を入れてみる。
予約は成立したようだが、予約の仕組も不明だし、ゲストハウスがどんなものかも分らない。
とにかく現地に行くことにする。

地図アプリを頼りに、歩いて行くと、市電で函館駅前停留所から1停留所分先にある市役所前停留所の程近くにあった。
フロントには、宿の主人と思われる男性が座っている。
「先程、予約を入れた者ですが…」と名乗り、宿泊者名簿を記入して、宿泊料(¥3240)を現金で支払う。
できればクレジットカードで支払いたかったのだが、現金のみの扱いだということで、断られてしまった。

キッチンの奥の階段を昇って、客室に向かう。
2階の一番奥、道路に面した部屋が、女性専用室で、白木の二段ベッドが2つ置いてある。
ベッドの強度に不安があるが、一泊だけの宿なので、気にしないことにする。

宿泊客は一人だけで、下段ベッドの一つを使用しているようなので、もう一つの下段のベッドを使用させて貰うことにする。
どうすれば、テリトリーの表明ができるのか不明だったが、ベッドの傍らにキャリーバッグを置き、寝具の上に少し荷物など散らしてみる。
これで、宿が確保できたので、函館の市内観光に出掛けることにする。

3年前に1泊したことがあるので、多少の土地勘がある。
まずは、市電に乗って、1日乗車券¥600を入手する。
終点の谷地頭温泉で降車する。
温泉に真直ぐに行くつもりだったのだが、途中で、「立待岬」の方向を示す標識があったので、気を変える。
絶景の遊歩道や、石川啄木一族の墓、与謝野鉄幹・晶子の歌碑などがあるらしい。
十分程の筈なのだが、登坂なので、難儀する。
おまけに、岬に辿り着く前に、雨が降り出す。
生憎、折畳傘は宿に置いて来てしまっていた。
仕方がないので、岬を見下しただけで、折り返す。
と、雨脚も弱まり、湾に虹がかかる。
幸先はよさそうだ、と、安心したのだが…

気をよくして、谷地頭温泉に向かう。
券売機で、入浴料¥420と手ぶらセット¥500のチケットを購入して、入浴する。
設備は古いのだが、銭湯の料金だし、露天風呂があって、気持ちがいい。

入浴を済ませてさっぱりしたところで、市電の停留所に戻る。
五稜郭公園前で降りて、五稜郭タワーに登ってみようかと考えるが、営業時間に間に合いそうにない。
とりあえず、腹を満たそうと、駅の傍の「シエスタ」の地階に行く。
まるかつ水産シエスタ店で、本日のおまかせ鮨「いさり火」¥2800とサッポロ生ビールを注文する。
焼酎のお湯割りを追加注文し、満足して、店を出る。

ここで、パン屋が目に入ったので、ベーコンエピ2種とミニクランベリーフランスを購入する。
さらに、ケーキ屋の前を通って、プリンを見てしまう。
やむなく?、「めるちゃんのぷりん」と「タルトフリュイ」を購入する。
旅先だというのに、何をやっているんだろう、とその時は思ったのだが。

さて、満腹になり、ほろ酔い気分。
さらに、プリンもパンもある。
宿に帰ろうと、ビルを出ると、雨が降り出していた。
結構な降りになっている。
しかし、丁度、目の前の停留所に、市電が停まっていた。
ツイている、と、乗り込もうとすると…
駅員さんが、「危ない」と制止する。
「落雷で運休中」なんだそうだΣ(・ω・ノ)ノ!

バスが出ていると、親切に教えてくれたのだが、折角の市電の1日パスだし、雨でバス停に着く前に濡れてしまう。
すぐ傍のダンキンドーナツで雨宿りをすることにする。
コーヒーとオールドファッションを購入して、喫煙席に陣取る。
することもないので、友人に、不運を託ったメールを打つ。
小1時間ほど暇をつぶして外に出る。
停留所で少し待っていると、市電が来たので、乗り込む。
数分後には、無事、市役所前に辿り着いていた。

散々な1日だったので、宿に戻ると、タルトフリュイを平らげて、早々にベッドに潜り込み、寝てしまう。
終わり良ければ総て良し、残りの旅程が無事に済めば、後日、楽しかった思い出になる、筈だったのだが…。

翌朝の早朝、午前3時過ぎ(多分3時8分頃)。
エリアメール(緊急地震警報)で、目が覚める。
急いで、スマホを回収する。

「強い揺れに備えてください」と言っているのだが、何をどうしたらいいか、判らない。
呆然としている間に、揺れが始まる。
かなり、強い。
結構、長い。

…ここは安全なのか、と、不安になる。
見上げてみても、二段ベッドの上が見えるだけで、上段の宿泊者もいないので、とりあえず、崩れてはこないようだ。
暫くして、とりたてて被害もなく、揺れが収まる。

スマホ地震速報などを検索するが、まだ地震発生直後なので、大した情報はない。
胆振地方で、震度7強という程度。
津波が心配だが、潮位に影響があるかも知れない、という漠然とした情報だけで、津波の心配はありませんという文言が見当たらない。

窓を開けようとするが、開かない。
開けるのを、諦めるが、後刻、チェックアウト前に確認してみたら、鍵が締まったままになっていただけだった…orz

道路を、緊急車両が走っているようだ。
サイレンの音が聞える。

まずは、もう一度スマホを充電しておこうと、コンセントに差し直してみる。
アダプターのLEDライトが消えており、通電していない。
室内の電灯は点いているので、別のコンセントに差し込んでみる。
しかし、ここもライトが点灯せず、通電していない。


あらためて、天井を見直すと、非常灯が点いているようだ。
窓の外を確認してみる。
夜明け前だから暗いのかと思っていたが、それ以上に暗いようだ。
街灯、自販機なども消えているらしい。
洗面所に行くと、水は出る。
階下のテレビは点くかも、と、下に降りてみる。

ちょうど、1階に泊まっていた男性が、部屋から出て来た。
階下のTVは、やはり点かないので、出張で足止めをくらったというその男性に、情報を聞く。
どうやら、停電は大規模らしい。

気分転換をしようと、外に出て、一服する。
緊急車両がパトロールしている。
呼び止めて事情を訊きたい気がするが、そんなことをしていいのか判らないし、呼び止める勇気もない。

空を見上げると、星がよく見える。
…星空も観る予定だった、と思いつつ、さすがに、ゆったり星を眺めている気分にはなれない…。

地震も停電も大規模なようなので、この先、旅行を続けることはできなさそうだ。
朝4時頃、スマホから、今日の宿泊先と翌日のフェリーをキャンセルする。
同室の子も目を覚まし、スマホを確認している。
地震で停電した旨を喋ってみるが、通じない。
日本人ではないようだ。
道理で、エリアメールに反応しなかった訳だ。
彼女は、とんでもない時間に目覚ましをかける迷惑な奴、と思っていたに違いない。

お互いの言語が通じないので、彼女の方が英語で尋ねてくる。
「Can you speak English?」
「I can speak English a little …」
何となく口から出たが、語順が正しいのか、自信がない。
しかも、a little を繰り返してしまった。
さらにもう一度、全文を繰り返して、喋れないことを強調してしまう。
相手は何か喋っているのだが、聴き取れない。
止むを得ず、拙い英語で意思の疎通をはかる。
「Where did you come from?」
出身を聞くのは、Where are you from?なのだが、とっさに出てきたのはdid youだった(;^_^A
別に直前の観光地でもいいや、と思っていると、幸いにも、相手に通じたようだ。
「Korea」と返事が返ってくる。
「ああ、韓国。」
韓国の人は、韓国をカンコクと発音しないらしい。
隣国の人と英語で話すのも、情けない気がするが、韓国語は目に一丁字もない。
仕方がないので、英語で尋ねる。といっても、初歩の英会話しかできない。
「Did you enjoy trip?」
あ、冠詞を抜かした、どうも冠詞は苦手、せめてyourをつけるべきだった、などと余計なことを考える。
しかも、今は、旅行の感想を聞いている場合ではないのである!

しかし、緊急時に役に立つような英会話など、全く出てこない。
地震の時の英会話なぞ、習った覚えがない。
アースクエイクは出てきたが、停電は思い出せない。
というより、そんな言葉を使ったことがない。

仕方がないので、スイッチを指差し、nothing、と言ってみる。
彼女は頷いていたので、これで通じたようだ。
地震情報を交換したいが、言葉の壁がある。
スマホの翻訳アプリを使えばよかったのだが、その時は、全く思いつかなかった。
宝の持ち腐れ、である。

その後、津波情報が確認できた時に、彼女に伝えようとしたのだが、津波は来ない、と説明できず、
津波、つなみ、TUNAMI、…」と呟いていると、
「ツナミ、分ります(日本語)」
しかし、その次の言葉が出てこない。
結局、「ツナミ、ノープロブレム」と言ってみたところ、通じた(;^_^A

朝ご飯代りに、昨日買っておいたプリンを食べる。
ベーコンエピ2種も丸々残っているので、当面、食料品は不要だが、ペットボトルの水が少ししか残っていない。
コンビニに買いに行こうと思いつく。

階下に降りると、宿の主人が到着していた。
どうやら、携帯電話で情報を集めているようだ。
懸案の津波情報を確認する。

ここは奥まっているので、前回の津波も影響がなかったと言う。
停電も、全道発生中で、復旧の見込みが立たない、信号も駅前だけ発電機で動かしている、らしい。

津波の心配がないなら、フェリーを利用しようと考える。
北海道新幹線が復旧するかどうかは不明だし、復旧直後は混雑しそうだ。
すぐには乗車できないかも知れない。
それなら、フェリーで青森まで出てしまえば、その後の交通機関に選択肢ができる。
とはいえ、電気が通じていないと、フェリーも出港できないかも知れない。

とりあえず、コンビニに行って来ますと、外に出る。
空は白み始めており、星は見えなくなっていた。


Googleで近くのコンビニを探し、地図を見ながら移動する。
灯りが消えているので、見逃すところだったが、セブンイレブンが開いていた。
4時半頃、500mlのペットボトルの水を2本、牛乳500mlのパックを購入する。
レジで、店員さんと少し情報を交換する。
何しろ、TVが点かず、ニュースを確認できないので、お互いに、状況がよく分らない。

ゲストハウスに戻ると、隣室の人(日本人のご夫婦)が起きた様子なので、少し話をする。
ご夫婦は、携帯電話なので状況が判らない、とりあえず、旅行を続行して、目的地には着きたい、と言っている。
無謀な話に思えるが、情報がないので、こちらの判断が正しいという確証もなく、説得する根拠もない。

部屋に戻ると、同室の子は寝ているようだ。
まだ朝早いので無理もない。
しかし、眠っていたのではなく、スマホを見ていたようだ。
少しすると寝返りを打って、こちらを向いた。
「水をあげる」と日本語で言って、ペットボトルを一本、手渡しておく。
状況が理解できているのかは不明なのだが、何分、意思の疎通がうまくいかない。

5時半頃、母親から電話がかかってくる。
函館で1泊したから、これからまっすぐ帰る、と言っておく。

暫くすると、同室の子は、フィッシュマーケット(英語)に行って、ぶらぶら散歩する(日本語)、と言って、出掛けて行った。
彼女が日本を発つのは明日らしい。
私の予定を聞いたようなので、「I will leave here six thirty」と答えた。
私は6時半にはここから発つ、と言ったつもりだったが、前置詞のatを抜かしたからか、通じなかった。
six o'clockと言い直してみたが、やはり通じないようだった。
ともあれ、後姿に、「Have a nice day!」と声を掛ける。
この状況では、Good luck! か、Take care! の方が相応しかったかも知れないが、その時は思いつかなかったのだった。

6時少し前、チェックアウトする。
宿の主人によると、状況は好転しておらず、隣室のご夫婦は既に駅に向かったとのこと。

外に出て、すぐ目の前に敷設されている市電の線路を見て、始発は6時半頃だった、と考え、すぐに、停電だから運行する筈がない、と考え直す。
ちょっと混乱している… 

函館駅に着くと、当然ながら、停電の為にJRは運休していた。
切符の発券なども一切できないらしい。
特急券を回収し、手書きで、パス券の星印を削除してくれた。
函館駅周辺には、旅行者と思われる人々が、三々五々にベンチなどに座っている。
JRの再開を待つつもりのようだ。

北海道新幹線が再開すれば、すぐに帰れるのだが、これだけ大勢の人が待っているなら、やはり、すぐには乗れないと思われる。
フェリーが運航していることを期待して、フェリーターミナルに向かうことにする。
タクシー乗り場にはまだ行列ができておらず、タクシーが数台客待ちをしている。
小銭がないので、乗車前に一応、確認してみる。
「済みません、1万円札しかないんですが、いいですか?」
「クレジットカードも使えますよ。」
無事、乗車できた。

「フェリーターミナルまでお願いします。」
函館と青森間には、津軽海峡フェリー青函フェリーの2社が運航している。
本数の多い方、とリクエストしたら、津軽海峡フェリーのフェリーターミナルに向かってくれた。
タクシーの運転手さんから情報収集を試みる。
しかし、運転手さんも、会社との連絡がとれない状況らしい。

「ところで、お客さんは仕事でこちらに?」と聞かれたので、
「いやあ、ぶらぶらと遊びに。」と答える。
この時にはまだ、笑い話で済んでいた。
偶々遊びに来た北海道で、大地震に遭遇した不運な観光客、なのであった。

数分後に、フェリーターミナルに到着する。
思ったよりも駅から離れていた。
クレジットカードでタクシー代¥1510を支払う。
現金が貴重なものとなりつつある時に、とても有難かった。

津軽海峡フェリーでは、青森行きと大間行きが運航している。
どちらでも早く乗れる方がいい、と、始めは思っていたのだが、着いた後の交通の便を考えると、多少待ったとしても、青森行きの方がいい。
カウンターには十数人ほどの行列ができていた。
この時点ではまだ、車やバイクの人が多かったようだ。
台風21号の通過で運休していた為、足止めをくった乗客(車両)が、乗船待ちをしているらしい。
さかんに文句を言い連ねているおっちゃんもいた。

不定期運航となっているのを了承して、乗船券を購入する。
カード払いを停電を理由に断られ、片道¥2770を現金払いする。
手書きの乗船券には「人85」と記入されている。
最初に出港するフェリーに乗れるか心配になり、訊ねてみる。
台風21号の影響で、車両は順番待ちをしているが、人だけなら十分に乗れるらしい。
先程、フェリーが入港して来るのが見えたので、安心して待つことにする。

7時過ぎに、友人から電話が入る。
昨夜、愚痴のメールを入れていたので、心配してくれたらしい。
今、起きた、と言うので、今頃? と非難してしまったが、実際には、まだ朝の7時なのである。
3時から起きていると、1日の半分程も過ごした気になるが、まだ朝早いのだった。
何しろニュースを入手できないので、状況を聞いてみる。
震度7強の震災で、全道の交通機関は全て運休のようだ。

上階にも待合室があるようだが、当然ながら、エスカレータが動いていないので、1階で待つことにする。
食堂のテーブル席がところどころ空席になっている。
先客に断って、その一つに座らせて貰う。

まず、トイレに行っておく。
当然だが、電灯が点かないので、暗い。
洗浄機付きだが、動かない。
ここまでは想定内だったが、用を済ませて水を流そうとしたら…
…何度やっても、流れない。
電動のポンプでくみ上げているのか、断水状態になっている。
気を取り直して、手を洗おうとするが、洗面台の蛇口からも、水が出てこない…
茫然としながら、食堂に戻る。
メニューのショーケースの傍に、手指消毒液があったので、喜んで使わせて貰う。

 

後は、ひたすら待つ。

テーブルで、時々居眠りをしながら、待つ。

目覚めると、立ち上がって、周辺をうろついてみる。

着岸しているフェリーを眺めてみる。

何となく、売店や食堂が営業するのを待っていたのだが、よくよく見てみると、停電の為、閉店するというお知らせが貼ってあった。

考えて見れば、当然である。

緊急時であると、ちゃんと認識できていないのか、電気のある生活に慣れきってしまっていて、対応できていないのか、考えることが変になっている。

 

そのうち、下船していた車の流れが、乗船の流れに変っているのに気づく。

もう少しだ、と思って、待つ。

しかし。

待てども、進展はなし。

乗船の方が時間がかかるのかも知れない。

とにかく、待つ。

ひたすら待つ。

 

カウンターの前の行列は、次第に膨れ上がり、エントランス一杯になり、遂には建物の外にも延びてしまっていた。

フェリーターミナルには、「なっちゃんワールド」が碇泊しており、人が乗り込んだり、何か積み込んだりしている。

臨時で出港するのではないか、と期待していたが、結局、運航する気配もないままに、時間だけが過ぎていった。

 

8時半頃に、大間からのフェリーが入港する。

青森行きよりも少し小型のフェリーである。

車両が下船を始めたと思ったら、さほど時間が経たないうちに、乗船のアナウンスが入った。

小型だけあって、積み下ろしも早いようだ。

青森行きがどうなっているのか、心配になって、ブルーマーメイドを見に行くが、まだ、車両の乗船中だった。

仕方がないので、再びテーブルに座って、じっと待つ。

 

9時半過ぎ、遂に、青森行き、人の165番までが乗船できると、アナウンスが入る。

荷物をかき集め、勇んで、指定の場所に馳せ参じる。

 

10時少し前、ブルーマーメイド号に乗船する。

倉庫のような内部を通り抜けると…

船内は、皓皓と電灯が点き、エレベーターが動いている!!

普段は当たり前の光景なのだが、先き行き不安な数時間を過ごした後なので、とても感動する。

 

購入した乗船券は2等で、船内の真ん中に通路があって、左右にカーペット敷きの部屋がある。

適当に左右に分かれて、納まればいいらしい。

少し奥に入ったところで、右手の部屋に入る。

とりあえず、荷物を置いて、船内を眺めながら、トイレに行く。

洗浄機付きで、水も流れる。

手も洗える。

文明の利器に感謝しながら、フロアを一周する。
船側の窓側には、テーブルと椅子があるが、既に乗客に占拠されている。
こぢんまりとしたショップもあり、自販機コーナーもある。
その手前に充電コーナーもある。

フロアを一周して部屋に戻ると、テレビが放映されていた。
漸く、ニュースを目にする。
想像以上に深刻な被害が出ているようだ。

とりあえず、スマホを充電することにする。
しかし、既に、部屋のコンセントには、携帯やらスマホやらが繋がれて、混雑状態になっている。
充電コーナーで充電することにして、自販機でハイボールを購入する。
呑みながら、充電されるのを待つ。
ついでに、充電しに来た人に、いろいろ話を聞いてみる。
結構、休日パスの利用者がいる。
函館で足止めをくっていた人達らしい。
ホテルを取るのに苦労したという話だが、夕方遅くの方が空室があったようだ。
いやあ、大変でしたねえ、と話しながら、いつ出港するんでしょうね、と言ったら、もうとっくに出港している、と笑われてしまった。

しかも、航行時間は3時間だと思っていたら、4時間よ、と、これも笑われてしまう。
ほとんど揺れなかったので、出港したことに、気が付かなかった…

出港風景は見逃してしまったが、上天気の中、ブルーマーメイドは順調に青森に向かって航行していた。
9割がた充電した時点で、外のデッキに出てみる。
船首寄りのデッキは強風が吹きつけているが、中程にベンチもあって、景色を眺めるのにちょうどいい。
と思っているうちに、雨が降って来たので、船内に逃げ戻る。

小腹が空いてきたので、インスタントのどん兵衛¥190を買う。
再度充電しながら、蕎麦をすする。

シャワールーム(無料)があったので、シャワーを浴びることにする。
着替えを取りに部屋に戻ってから、シャワールームへ。
少々揺れるが、ボディーソープ・シャンプー・コンディショナーもあり、旅塵を落とすには十二分である。
しかも、個室で、手前に着替えるスペースもある。
通路には、狭いながらも、洗面台と鏡があり、ドライヤーもある。

さっぱりしたので、もう一杯飲むことにする。
自販機でアサヒクリア¥150と、ウニの焼きおにぎり¥500を購入する。
窓側の席の空席を見つけて、海を見ながら、ゆっくりと昼食を摂る。
ウニバターを塗った焼きおにぎりは二個も入っていて、少々(かなり)食べ過ぎになってしまった。

ブルーマーメイド号は、順調に津軽海峡、平館海峡を航行し、青森フェリーターミナルに入港した。
航行時間は3時間ほどだが、車両を先に下船させ、約1時間後、人が下船する。
下船待ちの間に、2等船室で眠ってしまい、気が付いたら、私のほかには3名だけが残っていた。
アナウンスを待って、下船する。


さて、青森フェリーターミナルに着いたのだが。
着いた場所を全く誤解していた。
青森駅青函連絡船メモリアルシップ八甲田丸が碇泊している所がフェリーターミナルだとばかり思っていたのである。
僅かな距離なので、徒歩で移動しようと考えていた。
下船した乗客はどうやら、二カ所のタクシー乗り場でタクシー待ちをしている様子。
それを尻目に、歩き始める。


しかし、どうも見たことのない風景が続いている。
スマホの地図アプリを確認すると、フェリーターミナルと青森駅には2km程の距離がある。
徒歩約50分Σ(・ω・ノ)ノ!

方向音痴だと、事前確認を念入りにしておかないと、こういう目に遭う。
思い込みで方向を選ぶと、大抵、間違ってしまう…
気を取り直して、青森ベイブリッジを目指して、歩き続ける。
前から気になっていたので、ついでに渡ってみることにする。

下船したのが14時15分頃。

ベイブリッジに到達したのが15時頃。

八甲田号を見下して、青森駅に辿り着いたのが、15時15分頃。

このまま新青森駅に向かって、新幹線で東京駅まで戻ってもいいのだが、ついでなので、青い森鉄道に乗ることにする。

 

乗換案内で調べると、15時54分発の快速しらかみに乗車、野辺地駅で16時52分発の青い森鉄道に乗り換え、八戸駅に17時38分に到着、という経路がある。

しらかみの発車時刻まで少し間があるので、ドトールコーヒーでアイスオレ¥300を飲み、一服する。

乗車ホームに向う途中、駅構内の売店で、遠野どぶろく辛口¥486を購入する。
駅弁を買いたかったのだが、まだ、うに焼きおにぎりが消化できていない。

16時40分頃、野辺地駅に到着。
駅員さんを見つけて、乗換ホームを確認する。
ついでに、自販機で、東北自販機限定クラフトサイダーなる代物を¥130で購入する。
16時52分頃、青い森鉄道に乗り換え、17時38分頃、八戸駅に到着。

みどりの窓口で新幹線の指定券を発券して貰う。
手書きのパス券について、通達があったのか、窓口のおにいさんが、「これかあ」と呟いていた。
少々時間の余裕ができたので、駅弁屋で「ほたて照焼弁当」¥1180と、八甲田おろし¥380を購入する。

18時12分八戸駅発、21時04分東京駅着のはやぶさ36号に乗車。
東京駅から在来線に乗り換えて、帰宅。

苫小牧・釧路・フェリー・八戸の3泊4日の旅の予定だったのだが、函館1泊2日の旅になってしまった。
北海道で、アイスクリームやチーズ、焼きトウモロコシ、ジンギスカンを食べるつもりでいたのだが、一つも果たせず…。
無事に帰って来れたのだから、と、皆が慰めてくれるのだが、さて、リベンジはいつにしよう???